2023年7月18日火曜日

TOPPERS/ASP - PIC32MX版 その2

前回からの続きです。


開発環境の構築(MPLAB X IDE編)

MPLAB X IDE」とは、Microchip社の純正のIDEです。

PIC32MX版のTOPPERS/ASPを使って開発を行っていく上では、以下の方針を採ります。


1.コーディングとビルドは「Eclipse」を使う。

2.デバッガを使う場合のみ「MPLAB X IDE」を使う。


…面倒くさいですね。

何で2つのIDEを使い分けなきゃならんのか?


すいません、完全に個人的な趣味です!


コーディングは「Eclipse」の方が慣れているし、「MPLAB X IDE」はビルドやプロジェクト管理のやり方がイマイチ分かり難かったので、つい…。

もちろんコーディングを含めて「MPLAB X IDE」だけで全てを賄う方法もあるに違いありません。

(私は上手くいかなかったのですが。)

しかしながら、ここでは上記の方針に則り説明していきます。


では、まずは以下のページで「MPLAB X IDE」のダウンロードをしましょう。


https://www.microchip.com/en-us/products/microcontrollers-and-microprocessors/32-bit-mcus

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 1


上記のページのちょっと下の方に行ってもらって、「MPLAB X IDE」のロゴと「Learn More」というバナーが配置されている箇所がありますよね。

ここで「Learn More」バナーをクリックします。

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 2


新しいページに誘導されます。

ここで「Download MPLAB X IDE」のバナーをクリックです。

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 3


すると、以下のような場所に誘導されます。

ここで最新版の「MPLAB X IDE」をダウンロードしたくなりますが、それはダメです。

なぜならば、今回のターゲット「PIC32MX1/2/5 Starter Kit」は、新しめのバージョンではサポートが打ち切られ、最新版では「PIC32MX1/2/5 Starter Kit」用のプロジェクトの出力ができないからです。

それほど古い評価ボードではないと思うのですが、なんででしょうか?

大人の事情!?

ウ~ン、ちょっと気持ち悪いですが、とりあえず今はガマンして古いバージョンを探してみましょう。

なので、以下の通り「Go to Downloads Archive」バナーをクリックしましょう。

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 4


以下のような場所に誘導されます。

ちょっと下の方に行ってもらって、良さそうなバージョンを探しましょう。

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 5


以下のようなリストに辿り着いたら「Next >」というバナーをクリックしていきましょう。

ここでは動作確認ができている「MPLAB X v5.40」を探します。

(v6.0まで行かなければ、v5.45やv5.50でも大丈夫とは思います。)

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 6


あった!これだね。

MPLAB X v5.40」という表記の部分をクリックして、ダウンロードを開始します。

「MPLAB X IDE」ダウンロード・ページ - 7


ダウンロードが完了すると「MPLABX-v5.40-windows-installer.exe」というファイルが落とせます。

これをダブルクリックしてみましょう。

以下のようにインストーラーが起動します。

Next >」ボタンをクリックして先に進みましょう。

「MPLAB X IDE」インストーラー - 1


ほいほい、ライセンスね。

分かりましたよ~ってことで、同意のラジオボタンをクリックし、「Next >」ボタンをクリックです。

「MPLAB X IDE」インストーラー - 2


その後は、しばらく「Next >」ボタン連打!

「MPLAB X IDE」インストーラー - 3

「MPLAB X IDE」インストーラー - 4

「MPLAB X IDE」インストーラー - 5


ようやくインストールが開始されました。

「MPLAB X IDE」インストーラー - 6


かなり壮大な時間がかかりますが、インストール終了です。

Finish」ボタンをクリックです。

「MPLAB X IDE」インストーラー - 7


勝手にブラウザが開いて、他のソフトウェアをダウンロードするように促されますが、何もしない閉じちゃって大丈夫です。


今日はここまで。

次回はコンパイラのダウンロード、インストールを行いましょう。


<続く>

2023年7月14日金曜日

TOPPERS/ASP - PIC32MX版 その1

TOPPERS/ASP - PIC32MX版 概要

このブログ、気が付けば三ヶ月も更新を止めてしまいました。

本業が多忙過ぎたのもありますが、決してネタ切れというわけではありません。

まだまだ、公開したいネタはあります。

万が一、更新を待っていてくれた方がいましたら大変申し訳ありませんでした。


さてさて、今回取り上げるのは、Microchip社のマイコン「PIC32MX」です。

PIC32MX1/2/5 Starter Kit


PIC」といえば、電子工作を趣味としている方々の強い味方。

5V動作のDIPパッケージ(ゲジゲジの脚が太い形状)で手軽に扱えるマイコンとして、AVRマイコンと並び、あまりにも有名な存在ですね。

通常「PIC」といえば、このようなローエンドの8ビットマイコンを指すことが多いのですが、実は、16ビットや32ビットなどのバリエーションもあります。

一般的に、

PIC10,12,16,18系が8ビット、

PIC24,dsPIC系が16ビット、

PIC32系が32ビット

かなりの大所帯なシリーズ展開となっております。

しかしながら、ここで厄介な問題が…。

それは、各ビットのシリーズ間で丸っきりCPUのアーキテクチャが異なることです。

つまり、8ビットのPICのアーキテクチャと32ビットのPICのそれとは全く違うということです。

8および16ビットのPICのアーキテクチャは、それぞれ異なるMicrochip社独自のものです。

32ビットのPICのアーキテクチャは「MIPS」と呼ばれるものを採用しています。

この「MIPS」なるものを説明すると多くのページが必要となってしまいますので、興味のある方はWikiをご参照ください。

簡単に言えば、RISCという設計思想の正しさを証明するという学術的な理由から開発された、大学の研究室由来のアカデミックなアーキテクチャです。

こんな大学の教科書みたいな表紙のイメージ通り、アカデミックです!

MIPSアーキテクチャに関する書籍


この評価の結果、旧来のCISCに対するRISCの優位性が証明され、後のARMやPowerPCの設計に大きな影響を与えたわけですが、これについての蘊蓄はこの辺にして。

この「MIPS」、昔は結構流行っていました。

私が今でも愛用する、このモバイルギアIIにもNEC製のMIPSアーキテクチャのマイコンが積まれています。

しかし、今となってはやや古いアーキテクチャであることは否めず、RTOSなどの移植の例も少ない寂しい現状…。

そこで、現在市場に流通している唯一のMIPSアーキテクチャのマイコンである「PIC32MX」に「μITRON4.0」準拠のRTOS(リアルタイムOS)であるTOPPERS/ASPを移植してみました。

直接の移植の動機は、なんと言っても秋月電子通商さんで販売されている以下の製品の存在ですね。


●PICマイコン PIC32MX270F256B-50I/SP

●PICマイコン PIC32MX250F128B-I/SP


MIPSアーキテクチャで動作周波数50MHz級の本格的なマイコンがDIPパッケージで売られているという事実。

DIPパッケージというところが肝心です。

私のようなボンクラソフトウェア技術者だと、ハンダ付けが下手ですので、QFPパッケージ(脚が四方に出ていて、めっちゃ細い形状)での実装は難しいのです。

なので、気軽に治具や簡単な計測器を作成する際に、これほど助かることはありません。

PIC32は8ビット系のシリーズとは異なり、5Vではなく3.3V駆動となってしまいますが、それでも十分にありがたい存在です。


必要なもの

今回のターゲットとなる「PIC32MX1/2/5 Starter Kit」です。

秋月電子通商さんで売ってます。

この記事の執筆時点の価格で、8,600円です。

デバッガー機能を内蔵していますので、これポッキリで開発が進められます。

これが高いか安いかの議論はさておき…。

PIC32MX1/2/5 Starter Kit


他の型番への移植も可能ですが、TOPPERS/ASPを搭載して動作させるならROM:128KB/RAM:8KB以上の容量を持つ型番を選びましょう。

このブログでは「PIC32MX1/2/5 Starter Kit」を使用した場合の例を説明していきたいと思います。


ダウンロード/GitHub

ソースコードの入手は、こちらからどうぞ。

とは言っても、このソースコードをダウンロード、もしくは「git clone」しても、絶対にビルドが通りません。

このソースコードは未完成です。

なぜなら、Microchip社のドライバを後から付け加える必要があるんです。

そのMicrochip社のドライバのライセンスの条項が理解に難しく、公開、および再配布しない方が無難と判断したためです。

ですので、今後この記事では、それらのソースコードの入手方法やコピーする場所などを事細かに書いていくつもりです。

ちょっとだけ面倒ですが、お付き合いしていただけると嬉しいです。

ビルドは、まだやっちゃダメですよ~。

(あと、動かしながら記事書いてる過程でバグなんかが見つかるかもしれないので、ダウンロードは後の方が良いかも…。)


さて、次回から開発環境の構築をやっていきましょう。

そんなに間を空けずに更新…したいです。


<続く>

2023年4月8日土曜日

TOPPERS/ASP - ML62Q1000版 その6

前回からの続きです。

このテーマを最初からご覧になる場合はこちらからどうぞ。


サンプルプロジェクトの説明

このページ(TOPPERS/ASPのビルドからデバッグまで~サンプルプロジェクトで遊ぼう)を参照してください。

ML62Q1000


ML62Q1000版カーネルについて

以下、このカーネルにおける備考です。


●OS上の割り込み優先度の扱い

このカーネルでは、割り込み優先度の設定はできません。

コンフィグレーションファイルなどにおいて、他のアーキテクチャからの移植性を考慮して、-1(優先度最低)から-6(優先度最高)を設定してもエラーが起きないようになっていますが、実際の動作に反映しません。

しかしながら、ML62Q1000に搭載されている割り込みコントローラーは、ちゃんと割り込み優先度を変更する機能を持っています。

だったら、対応しなさいよ!って言われちゃいそうですが、TOPPERS/ASP、および「μITRON4.0」の仕様に適合するカタチでの実装ができませんでした。

理由は以下の通りです。

少し小難しい話になってしまいますので、興味のない方は以下の青い部分は読み飛ばしてください。

複雑なので、箇条書きにします。


○「μITRON4.0」は、OSの仕様として割り込み優先度の操作をサポートするために割り込みマスクを管理する必要がある

○これを行うには、割り込みハンドラ内でその割り込みが起こった直前の割り込みマスクの値を参照できる必要がある。

○大概のCPUの場合、ステータスレジスタに割り込みマスクのビットが含まれる。

○大概のCPUの場合、割り込みが発生するとその直前のステータスレジスタの値がスタックに退避される。

大概のCPUの場合、割り込みハンドラ内でその割り込みが起こった直前の割り込みマスクの値は、スタックに退避されたステータスレジスタの値から知ることができる。

○ところが、ML62Q1000の場合、ステータスレジスタ「PSW」に割り込みマスクのビットがそもそも含まれない。「ELEVEL」という、それらしいビットは存在するが、これは「エミュレータ専用」、「ノンマスカブル」、「ソフトウェア」、「マスカブル」という4種類の大雑把な割り込みレベルを示すものであって、ここで言う割り込みマスクとは意味が異なる。

ML62Q1000の場合、ここで言う割り込みマスクに近いものは、割り込みコントローラー内の現割り込みレベル管理レジスタ、すなわち「CIL」レジスタである。

○しかし、この「CIL」レジスタの値は割り込み発生時にスタックには退避されない。

○よって、ハンドラ内では割り込みが起こった直前の割り込みマスクの値を回収できず、「μITRON4.0」の仕様に沿った形での割り込みマスク管理が完全には実装できない。


…う~ん、無念!

その代わり、裏技的に割り込み優先度を変更する方法を後ほど紹介します。

その裏技を使用しない場合、ML62Q1000における割り込み優先度は、割り込み番号が若いほど優先度が高くなるように固定されています。

割り込み番号の定義は「..\target\rb_d62q1577tb100_u8dev\target_sil.h」にあり、以下の通りです。

  1. ...
  2. /*
  3. * 「ML62Q1577」割込み番号(intno)の定義
  4. */
  5. #define TINTNO_WDTINT       1U
  6. //#define TINTNO_           2U
  7. #define TINTNO_VLS0INT      3U
  8. //#define TINTNO_           4U
  9. #define TINTNO_EXI0INT      5U
  10. #define TINTNO_EXI1INT      6U
  11. #define TINTNO_EXI2INT      7U
  12. #define TINTNO_EXI3INT      8U
  13. #define TINTNO_EXI4INT      9U
  14. #define TINTNO_EXI5INT      10U
  15. #define TINTNO_EXI6INT      11U
  16. #define TINTNO_EXI7INT      12U
  17. #define TINTNO_CBUINT       13U
  18. #define TINTNO_DMACINT      14U
  19. #define TINTNO_MCSINT       15U
  20. #define TINTNO_SIU00INT     16U
  21. #define TINTNO_SIU01INT     17U
  22. //#define TINTNO_           18U
  23. #define TINTNO_SADINT       19U
  24. //#define TINTNO_           20U
  25. #define TINTNO_EXTXINT      21U
  26. //#define TINTNO_           22U
  27. #define TINTNO_I2CM0INT     23U
  28. #define TINTNO_I2CM1INT     24U
  29. #define TINTNO_FTM0INT      25U
  30. #define TINTNO_FTM1INT      26U
  31. #define TINTNO_TM0INT       27U
  32. #define TINTNO_TM1INT       28U
  33. #define TINTNO_I2CU0INT     29U
  34. #define TINTNO_SIU10INT     30U
  35. #define TINTNO_SIU11INT     31U
  36. //#define TINTNO_           32U
  37. #define TINTNO_FTM2INT      33U
  38. #define TINTNO_FTM3INT      34U
  39. #define TINTNO_TM2INT       35U
  40. #define TINTNO_TM3INT       36U
  41. #define TINTNO_SIU20INT     37U
  42. #define TINTNO_SIU21INT     38U
  43. #define TINTNO_CMP0INT      39U
  44. #define TINTNO_CMP1INT      40U
  45. #define TINTNO_FTM4INT      41U
  46. #define TINTNO_FTM5INT      42U
  47. #define TINTNO_TM4INT       43U
  48. #define TINTNO_TM5INT       44U
  49. #define TINTNO_SIU30INT     45U
  50. #define TINTNO_SIU31INT     46U
  51. #define TINTNO_SIU40INT     47U
  52. #define TINTNO_SIU41INT     48U
  53. #define TINTNO_FTM6INT      49U
  54. #define TINTNO_FTM7INT      50U
  55. #define TINTNO_TM6INT       51U
  56. #define TINTNO_TM7INT       52U
  57. #define TINTNO_SIU50INT     53U
  58. #define TINTNO_SIU51INT     54U
  59. #define TINTNO_LTB0INT      55U
  60. //#define TINTNO_           56U
  61. #define TINTNO_LTB1INT      57U
  62. #define TINTNO_LTB2INT      58U
  63. #define TINTNO_RTCINT       59U
  64. //#define TINTNO_           60U
  65. ...


●ソフトウェア割り込み

今回のTOPPERS/ASP ML62Q1000版においては、特別にサンプルプロジェクトにソフトウェア割り込みのサンプルコードを入れています。

サンプルプロジェクトの操作方法については前述したこのページ(TOPPERS/ASPのビルドからデバッグまで~サンプルプロジェクトで遊ぼう)を見ていただくとして、具体的には「i」を一文字ターミナルに対して入力すると、このソフトウェア割り込みが発生するようになっています。

「..\OBJ\sample1.c」の「main_task()」関数内を参照してください。

結構下の方、以下のソースコードに注目。

  1. ...
  2.         case 'i':
  3.             /*
  4.              * ソフトウェア割込み(ソフトウェア割込み10番を発生させる)
  5.              */
  6. #pragma ASM
  7.             swi #10
  8. #pragma ENDASM
  9.             break;
  10. ...


こんな感じで「i」の一文字をターミナルから入力された場合の処理を追記しています。

実際にソフトウェア割り込みを発生させているのは「swi #10」というインライン・アセンブラの命令です。

これは、ソフトウェア割り込みの10番を発生させろ!…という意味になります。

ソフトウェア割り込みでも、通常のマスカブル割り込みと同様に、正しく動作させるにはコンフィギュレーション・ファイルに宣言を行う必要があります。

このサンプルプロジェクトの場合は「..\OBJ\sample1.cfg」にその記述があります。

  1. ...
  2. /*
  3.  * ソフトウェア割込み(ソフトウェア割込み10番を指定)
  4.  */
  5. ATT_ISR({ TA_NULL, 0, (10 + 61), swi_isr, 1 });
  6. CFG_INT((10 + 61), { TA_NULL, -1 });
  7. ...


ここで指定する割り込み番号は、通常のマスカブル割り込みとソフトウェア割り込みを通して連番としています。

上記の割り込み番号の定義(「..\target\rb_d62q1577tb100_u8dev\target_sil.h」」)では、60番まで使われていましたよね?(実際は空番ですけど…。)

したがって、ソフトウェア割り込みはその次、すなわち61番から指定するようにしてください。

ちょっとややこしいですが、ソフトウェア割り込み番号0は61番、今回のソフトウェア割り込み番号10なら、(10 + 61)=71番ということになります。

ソフトウェア割り込み番号は、0~63番まで、合計64個も使えます!(何にそんなに使うんだ!?)

さて、上記のコンフィギュレーションでは、「swi_isr()」という割り込みハンドラを登録しています。

これは「..\OBJ\sample1.c」に実装しています。

一番下の方です。

  1. ...
  2. /*
  3.  * ソフトウェア割込みハンドラ
  4.  */
  5. bool_t debug = false;
  6. void swi_isr(intptr_t exinf)
  7. {
  8.     debug = !debug;
  9. }
  10. ...


10番のソフトウェア割り込みが発生すると、この関数に処理が飛びます。

すなわち「debug = !debug;」の行にブレークを仕掛けて、サンプルプロジェクト動作中にターミナルに「i」を入力すると、この行で停止します。

ソフトウェア割り込みは、昔のCPUにはよく見られた実装ですが、最近ではあまり目にすることはありません。

しかし、上手く使うとプログラムの処理がスマートになり、ソースコードが読みやすくなったりするメリットがあります。

その分、他のアーキテクチャへの移植性は悪くなりますので、ここぞ!という時に使いましょう。


●OS管理外割り込み

今回のTOPPERS/ASP ML62Q1000版においては、OS管理外割り込みに対応しています。

通常「μITRON4.0」は割り込みをも管理するOSですが、OS管理下の割り込みは、純然たるベタな記述のOS管理外割り込みとして実装した場合と較べて、パフォーマンスは若干劣ります。

そのため、例えばAD変換などの応答性を重視される割り込みなどにおいては、OSの管理が足かせになる場合があります。

割り込みをOSの管理外として実装した場合、確かに応答性は向上しますが、割り込みハンドラ内でOSのシステムコールを呼ぶことは、原則できなくなります。

なにせOSの管理外ですから…。

さて、割り込みをOS管理外に設定する方法ですが、これはコンフィギュレーション・ファイルで宣言を行います。

具体的は、以下の条件で設定します。


1.CFG_INTの引数「intpri」を優先度最高(このML62Q1000版の場合は-6)以下にする

2.DEF_INHの引数「inhatr」に「TA_NONKERNEL」フラグを設定する


例えば、前述のソフトウェア割り込みをOS管轄外に変更してみましょう。

「..\OBJ\sample1.cfg」のソフトウェア割り込み10番の設定を以下のように変更します。

  1. ...
  2. /*
  3.  * ソフトウェア割込み(ソフトウェア割込み10番を指定)
  4.  */
  5. //ATT_ISR({ TA_NULL, 0, (10 + 61), swi_isr, 1 });   // コメントアウト!
  6. //CFG_INT((10 + 61), { TA_NULL, -1 });              // コメントアウト!
  7. CFG_INT((10 + 61), { TA_NULL, -7 });                // 追記!
  8. DEF_INH((10 + 61), { TA_NONKERNEL, swi_isr });      // 追記!
  9. ...


CFG_INT」では、ML62Q1000版の優先度最高の値「-6」より、更に優先度が高い「-7」を設定しています。

元の「ATT_ISR」では「TA_NONKERNEL」フラグが設定できませんので「DEF_INH」を使います。

以上で前述の条件を満たせます。

このようにすると、このソフトウェア割り込み10番のハンドラは、OSの管轄から外れ、割り込みの応答性は向上しますが…。

繰り返します。

OS管理外割り込みハンドラ内で「iwup_tsk()」などのシステムコールを呼ぶことはできませんのでご注意を!


●割り込み優先度を変更する裏技

さて、前述した割り込み優先度を変更してしまう裏技についてです。

この裏技、実はすでにOS内で使用しています。

今回のTOPPERS/ASP ML62Q1000版においては、素の状態で3つの割り込みを使用しています。

1つはOSタイマーで、上記の割り込み番号の定義(「..\target\rb_d62q1577tb100_u8dev\target_sil.h」」)で言うところの「TINTNO_TM0INT(割り込み27番)」です。

2つ目は、デバッグ用のシリアル通信で、受信割り込みである「TINTNO_SIU00INT(割り込み16番)」です。

3つ目は、同じくシリアル通信で、送信割り込みである「TINTNO_SIU01INT(割り込み17番)」です。

ここで思い出してください。

ML62Q1000における割り込み優先度は、割り込み番号が若いほど優先度が高くなる」と前述しましたね。

すなわち、普通に実装した場合、OSタイマーよりもシリアル通信のための割り込みの方が優先度が高いということになります。

TOPPERS/ASPはリアルタイムOSです。

タイムクリティカルが売りなのに、それを司るOSタイマーが、遅延の許されるデバッグ用のシリアル通信の割り込みよりも優先度が低いという状況になります。

それって、リアルタイムOSとしてどうなのよ?

なんとかしてOSタイマーの割り込み優先度を上げたいところですよね?

しかしながら、これも前述のように、このカーネルでは、割り込み優先度の設定はできません。

じゃあどうするか?

そこで裏技です。

「..\target\target_config.c」の「target_initialize()」関数を御覧ください。

この「target_initialize()」はOSが起動してから比較的早い時期に実行される関数です。

以下の部分に注目!

  1. ...
  2. /*
  3.  * ターゲット依存の初期化
  4.  */
  5. void
  6. target_initialize(void)
  7. {
  8.     initVls_t initVls;
  9.     /*
  10.      * プロセッサ依存の初期化
  11.      */
  12.     prc_initialize();
  13.     /*
  14.      * 割込みレベル制御許可
  15.      */
  16.     write_reg8(ILEN, 0x01U);
  17.     /*
  18.      * 16 ビットタイマ0 割込み(TM0INT)のレベル設定
  19.      * -> 11: レベル4(割込みレベル高)
  20.      */
  21.     ILTM0L = 1;
  22.     ILTM0H = 1;
  23. ...


一番下の2行で「ILTM0L」と「ILTM0H」のレジスタにそれぞれ「1」を設定していますね?

これらは「割り込みレベル制御レジスタ」というレジスタの中のビットで、OSタイマーに使用している16ビットタイマ0割込み(TM0INT)用のものです。

この「割り込みレベル制御レジスタ」は全てのマスカブル割り込み要因ごとに用意されています。

これらは、今回の場合は「c:\U8Dev\Inc\ML621577.H」に定義されています。

「割り込みレベル制御レジスタ」のこれらのビットは、該当する割り込み要因のレベルを設定するものであり、「H(ハイ)」と「L(ロー)」の2ビットで構成されています。

2ビットだから、レベル1~4までの4段階を設定できます。

ここで言う「レベル」とは、その値が高い割り込みが優先されるという意味になります。

つまり、前述した「ML62Q1000における割り込み優先度は、割り込み番号が若いほど優先度が高くなる」という法則を無視することができます!

(同じレベルのものは、やはり上記の法則に則りますが…。)

「H(ハイ)」と「L(ロー)」の並びで、以下のようにレベルを設定できます。


○00: レベル1(割り込みレベル低)(初期値)

○01: レベル2

○10: レベル3

○11: レベル4(割り込みレベル高)


今回は「ILTM0L」と「ILTM0H」を共に「1」にしたので、OSタイマーに使用している16ビットタイマ0割込み(TM0INT)は「レベル4」に設定していることになります。

これにより、たとえ「割り込み番号が若いほど優先度が高くなる」という法則があろうとも、レベル1のシリアル通信系のものよりもレベル4のOSタイマーの割り込みが優先して実行されることになります。

前述の通り、割り込みマスクの問題から、割り込み優先度の操作についてこのカーネルでは完璧にはサポートできませんでしたが、この裏技を使えば、大抵の場合は対処できるようになるでしょう。


●例外ハンドラは未対応

コンフィグレーションファイルなどにおいて、他のアーキテクチャからの移植性を考慮して、例外ハンドラの作成はできるようになっているものの動作はしません。

理由はML62Q1000に例外処理が存在しないためです。


●一部サービスコールは未対応

性能評価用システム時刻取得のための「get_utm()」サービスコールは未実装です。


●拡張パッケージについて

例えば、アプリケーションによっては、メッセージバッファやミューテックスといった機能を使いたい場合が出てくると思います。

しかしながら、これらの機能は標準では実装されておらず、「..\extension」以下の該当する機能のソースコードをカーネルのソースコードディレクトリにコピーする必要があります。

ここで注意しなければならないのは、今回のTOPPERS/ASP ML62Q1000版においては、カーネルのソースコードディレクトリが2つ存在することです。

1つ目は、純正のカーネルソースコードディレクトリである「..\kernel」。

2つ目は、ML62Q1000専用の「..\kernel_u8dev」です。

なんで分かれているのか?

それは、ML62Q1000版で使用されることを想定しているコンパイラがいつものGCC系統ではなく、ラピステクノロジー社純正の「ccu8」だからです。

すなわち、GCC系統のコンパイラでビルドが通るように書かれた「..\kernel」以下のソースコードは、ラピステクノロジー社純正の「ccu8」コンパイラではビルドが通らなかったのです。

そこで「ccu8」コンパイラでもビルドが通るように「..\kernel」を書き換えたものが「..\kernel_u8dev」というわけです。

ヘッダファイルの格納ディレクトリである「..\include」と「..\include_u8dev」も同様の理由で分けています。

さて、例えば現在のカーネルにメッセージバッファの機能を加えるために、「..\extension\messagebuf」以下のソースコードやヘッダファイルを「..\kernel_u8dev」や「..\include_u8dev」に上書きすると仮定しましょう。

すると「..\extension」以下のソースコードやヘッダファイルは、GCC系統のコンパイラで通るように書かれているため、「ccu8」コンパイラではエラーが出ることが考えられます。

私が「ccu8」コンパイラ用の「..\extension_u8dev」といったものを用意すればいいだけの話ですが、そこまで手が回らず…すんません!

とはいえ、エラーが発生した場合に「ccu8」コンパイラで通るように修正するのは、それほど難しい作業ではありません。

ほとんどの場合、修正が必要なのはヘッダファイルであり、インラインの宣言の違いなど、C言語の方言にまつわる部分です。


この辺りは「..\kernel」と「..\kernel_u8dev」、および「..\include」と「..\include_u8dev」を比較して、それをヒントに移植してみてください。


ライセンスについて

このカーネルは「TOPPERSライセンス」で配布しております。

無償ですが、使用に関しては自己責任です。

このカーネルを商用利用するレアな方は、このリンク先の条項に従ってください。


さて、今回はラピステクノロジー社のML62Q1000マイコンを取り上げたわけですが、個人的には、大変気に入っております。

元々8ビットのアーキテクチャを16ビットに拡張した製品ではあるのですが、それが無理なくスマートに実現されており、命令系統も洗練されています。

コンパイラやデバッガも、純正品独特のクセはあるものの質実剛健といった印象で、好感が持てます。

それに加えてノイズに強くて低消費電力という売りを考えると、もう少し広く普及しても良いのでは?と思います。

TOPPERS/ASPに続いて、FreeRTOSも移植してみたいと思いました。

ML62Q1000マイコン、どうぞ機会があれば採用を検討してみてくださいね。


<終わり>

2023年3月13日月曜日

MSX DEVCON 3 その2

3月12日(日)の「MSX DEVCON3」行ってまいりました。

場所は、秋葉原UDX 6Fのカンファレンスルーム。

秋葉原UDX


秋葉原に来る頻度も多いし、UDXも(特に地下駐車場)よく利用していますが、ここまで足を踏み入れたのは初めてだな…。

案内表示板


会場を入ると、前回の東京大学での「MSX DEVCON 1 Tokyo」の時とは打って変わって、アカデミックな雰囲気。

東京大学でやるほうがアカデミックな感じが漂いそうなものですが…。

今日の内容は、私ごときがついていけるものだろうか?と、心の中で冷や汗。

参加者は、ゲーム好きというよりも、ベテランの技術者や企業の役員風の方が多かったですね。


私は15:30からの第2部での参加となりました。

時間となり、今回の次世代MSXのフロントマンである、西 和彦さんが登壇へ。

大変朗らかな方ですが流石に「天才」と呼ばれる方、醸し出すオーラは半端じゃない!

さて、気になる内容ですが、次世代MSXのラインナップの中でも最も小規模な、IoTエッジとしての「MSX0」の詳細情報が中心でした。

現在、クラウドファンディングで募集をかけている「MSX0 Stack」の具体的な使い方まで。

MSX0 Stack


あとは、他のカテゴリである「MSX3」、「MSX Turbo」の今後の予定など。

さらに、ゲーマーの方は注目!

プロジェクトEGG」の代表取締役、鈴木直人さんの講演など、盛り沢山な内容でした。


今回も守秘義務があると思いますので、詳細を述べるのは差し控えたいと思いますが、個人的に一番気になったのは「MSX0 Stack」に使用されているマイコン「ESP32」のことです。


ESP32とは?

このマイコンに関する詳細は、こちらをご覧いただくとして、簡単に言ってしまうとWiFiとBluetoothのモジュールが両方乗っていて、マルチコアで性能が高く、そのうえ激安という「化け物」のようなマイコンです。

電子工作好きの間では超有名な存在。

アメリカのTensilica社がライセンスする「Xtensa LX6」CPUコアを用い、台湾のTSMCで製造されている、中国のEspressif Systems社の製品となります。

Espressif ESP-WROOM-32 Wi-Fi & Bluetooth Module


「MSX0 Stack」は、この「Xtensa LX6」CPUコアの上でZ80エミュレータを動かし、MSXのシステムを動作させる仕組みです。

問題は、ココです!

アメリカ、というより西側のライセンスによる中国製のマイコン…。

これが懸念事項です。

御存知の通り、アメリカおよび西側諸国と、中国との国際関係に懸念が多い情勢です。

仮に、アメリカの知的財産保護政策により、Tensilica社によるライセンスが停止された場合、中国のEspressif Systems社のこの「ESP32」マイコンはいつディスコンになるのか分からない存在です。

そんな馬鹿な!?…と思われる方、中国でのARMアーキテクチャの現状を是非御覧ください。

あくまで「MSX0」をホビー用途として使用するだけなら問題は大きくありませんが、私のように、いつか「MSX0」規格をビジネスとして使用することを目論んでいる人間にとっては、この点は無視できない課題となります。

私も、この話題の「ESP32」マイコンに例のごとくRTOSを移植して遊ぼうと思ったことがありましたが、この懸念から、このマイコンの未来は暗いかもしれない…と思い、途中でやめてしまったという経緯があります。

(それ以上に、技術的な問題が大きかったわけですが、それに関しては機会があれば書かせていただきたく思います。)

ましてや、自社のマスプロダクト品に採用することなど到底考えられません。

安くて、すっごく魅力的なマイコンなのにぃ~!

ヒトでもモノでも、国籍による差別はいけませんが、ビジネスともなると倫理一辺倒では通用しない世の中…。


とはいえ、「MSX0」に限らず次世代MSXの全てのラインナップは、ハードウェアとソフトウェアを完全に切り離して考えるコンセプトが徹底されています。

仮にESP32がなくなってしまっても、ARMとか、別のアーキテクチャ上で動く「MSX0」を作れば良いし、ARM上で動くZ80エミュレータなんてありふれてますよね?

無ければ作れば良いのです!

その精神が大切だし、それが楽しいのです。

西さんも仰っていました。

過程が楽しいんだ!」と…。


さて、「MSX0」に使用されるマイコンに関して、ややネガティブな内容を書いてしまいましたが、どうかこれが杞憂に終わりますように。

世界平和を切に願うものです。

2023年3月8日水曜日

MSX DEVCON 3 その1

来る3月12日に「MSX DEVCON 3」が開催されます。

前回の「MSX DEVCON 1 Tokyo」に引き続き、参加して来ようと思います!

「MSX0 Stack」クラウドファンディング


プロジェクトの中心人物、西 和彦さんの提唱する「次世代MSX」は、単純に「MSX3」という名称で一括りにされている傾向があります。

その方がセンセーショナルだからと思いますが、これは大きく分けて以下の3つのコンセプトで構成されており、その総称と言えます。


●MSX0 - IoTエッジ

●MSX3 - パーソナルコンピュータ

●MSX Turbo - スーパーコンピュータ


上から順に現在の状況をあくまで私なりに整理したいと思います。


MSX0 - IoTエッジ

これに関しては、既にこの企画に沿った製品の第一号である「MSX0 Stack」のクラウドファンディングが開始されています。

冒頭の画像の通り、概ね順調に推移しているようで何よりです。

「MSX0 Stack」は、IoTエッジである「MSX0」規格ではありますが、これ単体でもMSX/MSX2/MSX2+用のソフトウェアが動作するようです。

(「MSXturboR」は言及されてません。多分無理かと。)

「MSX0 Stack」だけではなく他の「MSX0」規格の製品のリリースも数多く計画されているようです。

非常に良くまとまった記事がありますので、ご参考に。

もし、あなたが古くからのMSXユーザーであり、手持ちのソフトウェアを使いたい、また遊びたいという目的をお持ちなら、この「MSX0」規格の製品を購入すれば十分に事は足りるでしょう。

そうではなく、IoTエッジとして活用したい場合は、センサーとの接続や、そこからデータを回収する仕組み、更にそれを上層に上げる仕組みを習得する必要があるでしょう。

おそらく、そのためのプログラミング言語としては「BASIC」が筆頭でしょうが、他の言語は?対応するセンサーの種類は?具体的なAPIの仕様は?などの情報は、直近のDEVCONも含め、徐々に明らかになっていくことでしょう。


MSX3 - パーソナルコンピュータ

「MSXturboR」に続く待望の次世代MSXです。

上記の「MSX0」の進捗の影響で計画が遅れているということですが、現在のところ、かつての「1chipMSX」と似たような形態での製品が今年Q3に発表される予定となっているようです。

もし、あなたがゲーマーならば、一番注目すべきカテゴリでしょう。

このMSX3を単なるゲームマシンと見た場合、気になるのはそのスペックと参入するサードパーティの数などといったところになるでしょうか。

かつてMSXは、ゲームマシンとして任天堂のファミリーコンピューターなどと争う一面もありました。

現代であれば、任天堂のSwitchや、SONYのPlayStation5と争うことになるのでしょうか?

ゲームマシン以外の用途として見た場合は、次世代MSXというシステムの中核として、下位の「MSX0」の開発プラットフォームとしての役割や、そこから上がってくるデータの中継点、すなわちゲートウェイとしての役割を担うことになるのでしょうか?

とにかく「MSX3」という名称があまりにもセンセーショナルですので、最も注目を集めるカテゴリであるが故に期待される要素も多く、未だその真の姿は混沌としているように思います。


MSX Turbo - スーパーコンピュータ

個人的には、最も興味があり、最も重要なカテゴリであると思います。

初代のMSXのコンセプトは何だったでしょうか?

当時、高嶺の花だったパーソナルコンピュータを大量生産のマスプロダクト品として落とし込み、個人の購入が十分に可能な値段で広くユーザーに提供するというものだったはずです。

今では、コンピュータは一家に一台どころか、一人に一台、スマートフォンなどを含めれば一台以上が当たり前の時代となりました。

その時代の道筋を最初に作ったのは、西さん、その人であると言っても過言ではないと思います。

しかし、パソコンは気軽に買える時代となりましたが、かの「富嶽」のようなスーパーコンピュータはどうか?

とてもではありませんが、よほどの富豪でもないかぎり個人の所有は困難です。

しかし、数十年前のパソコンもそうだったんです。

すなわち、西さんは、そのスーパーコンピュータを個人の購入が十分に可能な値段で広くユーザーに提供してしまおう!と考えているのです。

MSXで得た自らの成功体験を時代を経て、更に大きなスケールで再現しようというのです。

この「MSX Turbo」、形として姿を表すのは来年以降となりそうです。

これの登場により、他のカテゴリのMSXの全てがこのスーパーコンピュータに接続され、有機的に連動し稼働することにより「次世代MSX」システムは完成を見るのでしょう。

もはやスーパーコンピュータは研究者だけの所有物ではありません。

誰もが自由に所有し、使えるものとなるのです。

そう、かつてのパーソナルコンピュータがそうだったように…。

これは楽しみで仕方ありません!よね?


以上のように、まだまだ謎が多い「次世代MSX」

「DEVCON 3」でどれだけのことが明らかになるのか?

当日はしっかり学んできたいと思います。



しかし、なぜ、この時期にリモートではなく対面でのDEVCONとなったのでしょう?

コロナ禍が落ち着いたということもあるのでしょうが、想定外の計画の遅延から「次世代MSX」の関心度が下がることを西さんが懸念したのでしょうか?

…でもねぇ、西さん。

僕たちは、もう何十年も待っていたんですよ。

今更、数ヶ月や半年程度の遅れなんて、誰も気にしちゃいませんゼ。

2023年3月2日木曜日

TOPPERS/ASP - ML62Q1000版 その5

前回からの続きです。

このテーマを最初からご覧になる場合はこちらからどうぞ。


デバッガとターゲットの配線

デバッガの「EASE1000 V2」とターゲットの「SK-BS01-D62Q1577TB」の間で、こんな感じの配線をします。

デバッガとターゲットの配線 - 1


まずは「SK-BS01-D62Q1577TB」にピンヘッダを取り付けます。

ピンヘッダの取り付け


ここで、まず注意事項!

「SK-BS01-D62Q1577TB」のピンヘッダ用のランド(穴)が小さいので、よく使うサイズのものは使えません。

例えば、秋月電子さんで言うところの「細ピンヘッダ」を用意する必要があります。

以下、普通のものと、この「細ピンヘッダ」の比較の写真です。

上の青いのが噂の「細ピンヘッダ」です。

「細ピンヘッダ」は一列のものしか売ってなかったので、2本ずつ使ってハンダ付けしました。

細ピンヘッダ


デバッガの「EASE1000 V2」とターゲットの「SK-BS01-D62Q1577TB」との接続は、普通に基板左側の14ピンヘッダに専用のコネクタを接続して終わりっと…。

デバッガとターゲットの配線 - 2


プログラムの転送とデバッグ

これからTOPPERS/ASPのサンプルプログラムを動かす際には、動作確認のためにどうしてもシリアルポートが必要です。

そこで、以下のような市販のUSB/シリアル通信変換ケーブルを用意します。

市販のUSB/シリアル通信変換ケーブル


シリアル通信をするために必要なポートは、RXDとTXDとGNDの三本ですね。

ターゲット基板上の先程取り付けた細ピンヘッダから取りましょう。

P02(SU0_RXD0)ピンはコネクタCN1の19ピン、P03(SU0_TXD0)ピンはコネクタCN1の20ピンから取ります。

GNDは適当に…。

回路図を貼り付けたほうが良いのですが、ドライバと同様に守秘義務があって掲載できないかもしれません。

ご不便をお掛けします。

RXDTXD「J11」のシルク印刷の真上くらいです。

評価ボードからこうやってGNDRXDTXDと、それぞれの線を出してやって…

ターゲット側の配線


USB/シリアル通信変換ケーブル側の配線は、上からTXDRXDGNDの順番でこんな感じ。

これでシリアルポートが使えるようになりました。

USB/シリアル通信変換ケーブル側の配線


続いて、このUSB/シリアル通信変換ケーブルをパソコンに繋いでみましょう。

パソコン上でデバイスマネージャーを開きます。

ポート(COMとLPT)のサブカテゴリーとして「USB Serial Port」というポートが追加されているはずです。

(私のパソコンでは、「COM15」として認識されていますね。)

このポート番号、覚えておいて下さい。

デバイスマネージャー


ここで、デバッガとパソコンをUSBケーブルで繋げましょう。

ターゲットへの電源は、デバッガのコネクタから供給されます。

これは親切設計!

ご覧の通り、通電します。

デバッガとパソコンの接続


次に「TeraTerm」をご用意ください。

インストールしていない方は、このページ(TOPPERS/ASPのビルドからデバッグまで~サンプルプロジェクトのデバッグ)の「TeraTermの導入」の項目を参考にしてください。

もちろん、シリアル通信のターミナルであれば、他のものもお使いいただけます。

今回のTOPPERS/ASPのサンプルプログラムは、シリアル通信のメッセージを出力しますので、先程「USB Serial Port」として認識されたシリアルポート番号でターミナルを立ち上げておきましょう。

設定は、こんな感じです。

ボーレートは「9600」です。

(私のパソコンは、USB/シリアル通信変換ケーブルをCOM15として認識していました。)

TeraTerm - シリアルポートの設定


さて、「LEXIDE-U16」に戻りましょう。

まだサンプルプログラムをビルドしていない場合は、画面右側の「Build Target」タブの中、「OBJ」ディレクトリ直下の「all」をダブルクリックして、ビルドを完了させましょう。

「LEXIDE-U16」 - 1


次にデバッガを起動します。

画面右側の「Build Target」タブの中、「OBJ」ディレクトリ直下の「_debug」をダブルクリックです!

「LEXIDE-U16」 - 2


しばらくすると「ターゲット設定」というダイアログが表示されます。

「ターゲット設定」ダイアログ - 1


これを以下のように設定し、ダイアログ下部の「OK」ボタンをクリックします。


カテゴリ:ML62Q1000

グループ:ML62Q1500

LSI:ML621577

ターゲットICE:On Chip Emulator

「ターゲット設定」ダイアログ - 2


以下のようなポップアップが表示されますので、ここでも「OK」ボタンをクリックしてください。

ポップアップ


以下のような画面が表示されましたか?

これが「DTU8」というデバッガ・アプリケーションです。

DTU8 - 1


では、このアプリケーションを使って、ビルドしたサンプルプログラムをターゲットに転送しましょう!

DTU8の画面上部に並んでいるボタンの中から「プログラムファイルの読み込み」ボタンをクリックします。

フォルダーみたいなアイコンが3つ並んでいるうちの真ん中のヤツです。

DTU8 - 2


すると「プログラムファイルの読み込み」ダイアログが現れます。

これを使って、ビルドしたプログラムファイル「asp.abs」を選択して「OK」ボタンをクリックします。

この記事通りに作業いただいた場合、「asp.abs」は、以下のディレクトリに生成されています。


C:\cygwin64\home\<ユーザー名>\asp_1.9.2\OBJ

「プログラムファイルの読み込み」ダイアログ


しばらくアプリケーションがプログラムファイルをロードする間にワチャワチャしますが、それが終わると、DTU8は以下のような表示になると思います。

これは、ターゲットへ転送したプログラムが、現在スタートアップ・アドレスで停止していることを意味します。

DTU8 - 3


ここからプログラムを続行してみましょう。

DTU8の画面上部に並んでいるボタンの中から「プログラム実行」ボタンをクリックします。

DTU8 - 4


はい、ここで長らく放置していた「TeraTerm」を見てみましょう。

以下のように、サンプルプログラムが動作していることが確認できます。

TeraTermの表示


プログラムを停止する場合は、DTU8の画面上部に並んでいるボタンの中から「強制ブレーク」ボタンをクリックします。

停止させてみましょう。

DTU8 - 5


ブレークポイントを仕掛けましょう。

DTU8の「ファイル」メニューから、「ソースファイルの選択」をクリックします。

DTU8 - 6


「表示ファイルの切り替え」ダイアログが表示されます。

このダイアログの左側の「ユニット」リストの中から「sample1.c」を選択し「OK」ボタンをクリックしてください。

「表示ファイルの切り替え」ダイアログ - 1


これにより、「表示ファイルの切り替え」ダイアログの後ろのDTU8に「sample1.c」のソースファイルが表示されたはずです。

先程プログラムを停止した際に、タイミング良く「sample1.c」の中でブレークが掛かった場合は、元々表示されていたソースファイル表示と今回の作業で「sample1.c」が二枚表示となってしまいますが、まあまあ、ここはご勘弁を。

さて、「表示ファイルの切り替え」ダイアログには退場いただきましょう。

キャンセル」ボタンをクリックです。

「表示ファイルの切り替え」ダイアログ - 2


新たに表示された「sample1.c」、このソースコードの丁度中盤くらい、メインタスクの始めに仕掛けましょうか。

ブレークポイントは、ソースコード表示の左端付近の■(四角形)をクリックすることにより赤いマークが表示され、セットすることができます。

(解除したい場合もをクリックします。赤いマークが消えます。)

DTU8 - 7


これで本当にブレークポイントがかかるのか、試してみましょう。

今度は、DTU8の画面上部に並んでいるボタンの中から「リセット後に実行」ボタンをクリックします。

DTU8 - 8


程なくして、以下のように正しくブレークポイントを仕掛けた位置でプログラムが停止するはずです。

ここからは、「F10」キーでステップオーバー、「F11」キーでステップインなど、おなじみの操作が使用できます。

因みに、ステップオーバーやステップインなどを行っている時に命令が飛んでしまったり前後したりする場合は、最適化のせいです。

デバッグ時は、このページ(TOPPERS/ASPのビルドからデバッグまで~サンプルプロジェクトのデバッグ)の「サンプルプログラムのデバッグ」の項目を参考に最適化を解除しましょう。

DTU8 - 9


少々古めかしい外観のDTU8ですが、質実剛健といった出で立ちで好感が持てます。

便利で豊富な機能を有していますので、添付のDVD-ROMの中のドキュメントに目を通しておくことをオススメしますよ~。


さて、次回はTOPPERS/ASP ML62Q1000版の詳細な情報を書いていきます。

結構、盛り沢山な内容なので2回くらいに分けるかも…。


<続く>

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